2021 福山大学要覧
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しまなみテッポウギスプロジェクト01魚に関わる学びをしたいと自宅のある三重県から福山大学への進学を決めた中田さん。「シロギスの養殖ができるのは日本で福山大学だけということが決め手でした」と振り返ります。ところが3年次になっていよいよ研究室を決める、という段階になると「本当に養殖に携わる覚悟があるのか、やっていけるのかを考えてしまい、悩みに悩んだ」のだそうです。というのもシロギスの養殖に実践的に関わる有瀧教授の研究室に入ると、休日も時間も問わず魚に自分の生活を合わせる毎日になります。シロギスにつきっきりになるだけでなく、魚を安定した状態に保つためには気が抜けない日々が続きます。答えを出せない中田さんは、シロギス料理を提供する和食店へ足を運んでみることにしました。「初めて食べたシロギスの料理は寿司も天ぷらもどれも美味しくて。この瞬間、シロギスの美味しさをもっと多くの人に提供したいと強く思い、養殖の技術が身につく有瀧研究室に決めました」。中田さんが覚悟したとおり、因島キャンパスでの研究生活はシロギス一色になりました。6月になると産卵がはじまり、卵の管理から着手したところ思いどおりにならないことが多々起こったそうです。「産卵後に採卵して卵の数や状態をチェックしますが、今年は死卵が多かったです。また、生きている卵を水槽に移してからも水温とエアの調整が常に必要で、仔魚から稚魚への成長段階においても病気にならないよう細心の注意が必要でした」。頑張って世話をしても飼料の影響で共食いが発生してしまい、理由がわからないまま魚が病気になったり死んでしまいます。この現実に直面した中田さんは、自然環境の偉大さとともに、生き物を育てることの難しさを痛感したそうです。飼育実験で確認した39,000個の卵から体長10cm程度に成長したのはわずか600匹で、中田さんはこの成長過程を卒業研究として詳細なデータにまとめ続けています。卒業後は地元の漁業組合連合会への就職が決まり、「自分で育てた魚を生活者に届けられるというやりがいはとても大きい。ここで学んだことを仕事で発揮していきたいです」と未来を描いています。他にも、生命工学部ではワイン用ブドウ栽培や瀬戸内海にすむ生物の生態を研究中。生命工学部の学びはP090へ憧れた養殖の世界ながら「本当に自分にできるのか?」と悩み抜き、出した結論。思いどおりに育たない現実に直面し、人工飼育の難しさを痛感。それでもこの仕事を続けていく。福山市の寿司店とのコラボにより市場化をめざした試食会を開催。シロギスの寿司や吸い物などの多彩な料理に関係者一同舌鼓。013テッポウギスの養殖研究ができる大学は国内でここだけ。海と施設が近い、これ以上ない環境がある。

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